「白いキクラゲ」に「白キクラゲ」の特有成分を持たせる栽培方法を探る。
株式会社 GIFT
Ver.20250622K.F “Confidential”
シン・キクラゲ「商品登録出願済」ご提供の流れ
ステージ | 何をしたか | ねらい |
① 課題整理 | ・白キクラゲ(Tremella)は美容成分が豊富だが、共生菌が必要で栽培が難しい。・海外製菌床は品質保証が難しく輸入リスクが大きい。 | 「国内で安定・簡単に育てても、美容成分はしっかり」──両立が目標 |
② 代替種の選定 | 共生菌を必要としない 白いキクラゲ(Auricularia 無色変種) をベースに採用 | 栽培は簡単だが、美容成分は足りない…そこを改良 |
③ 美容成分を高める“強化菌床”設計 | ・海藻粉・柑橘果皮・Span80・Ca/Se などを配合・CO₂ストレスやUV-B照射で二次代謝を刺激 | 白キクラゲで高評価の多糖・フコース・ビタミンD₂を増やす |
④ 高機能株の選抜&純化 | ・出来上がった白いキクラゲから、高多糖・高グルクロン酸株をスクリーニング・無菌組織培養/胞子分離で“改良菌”を取得 | “美容成分を多く作る性質”を遺伝的に固定 |
⑤ 新菌床で再栽培 → シン・キクラゲ | 改良菌 × 強化菌床で量産試験 → 白キクラゲ並み、あるいはそれ以上の機能性を実現 | 共生菌フリーで栽培容易、国内生産で品質トレーサブル |
まとめ
白キクラゲの美容成分(高保湿多糖・フコース・ビタミンD₂など)を、共生菌いらずの白いキクラゲに“後付け”する技術
「シン・キクラゲ」=“育てやすさ”と“高機能”の両立
1. 「白キクラゲ」と「白いキクラゲ」の有用成分の差について
主要成分 | 白キクラゲ平均値 | 白いキクラゲ平均値 | コメント |
総多糖含量 | 55–70 % DW | 40–55 % DW | いずれもマンノース主鎖の酸性ヘテロ多糖だが、白キクラゲは枝鎖の fucose と glucuronic acid 比率が高く、高保水性・高粘度を示す |
グルクロン酸比率(モル%) | 13–25 % | 8–13 % | スキンケアへの保湿・抗炎症活性に寄与 |
フコース比率(モル%) | 10–20 % | <5 % | 抗酸化・細胞外マトリクス保護に関与 |
ビタミン D₂前駆体(エルゴステロール) | 1.8–2.3 mg g⁻¹ DW | 1.0–1.3 mg g⁻¹ DW | UV‐B照射でビタミン D₂に変換可能 |
分子量範囲 | 5 × 10⁵–2 × 10⁶ Da | 1 × 10⁵–8 × 10⁵ Da | 高分子ほど粘度・保湿能が高い |
2. ”白いキクラゲ”を”白キクラゲ”の機能性に近づける4段階アプローチの実施
基礎レシピはスギ・コナラ広葉樹チップ 55 %、小麦ふすま 20 %、大豆ミール 10 %、トウモロコシ粉 5 %、石膏 1 %、炭酸カルシウム 1 %、水分 62–65 %、pH 6.0(1 kg あたり高圧殺菌 121 °C × 2 h)。
フェーズ | 操作 | 科学的背景/ポイント |
① 系統選抜 | • 白変(アルビノ)系 10 株以上を取り寄せ、種菌振とう培養後に – フェノール-硫酸法で総多糖 >60 mg mL⁻¹ – グルクロン酸/マンノース比 >0.18 の株を選抜 | 白キクラゲの特徴である高グルクロン酸比率を持つ株を優先 |
② 培地強化 | a) 海藻粉末 (Laminaria) 2 % DW 追加 → fucose 前駆体供給b) 乾燥柑橘果皮粉 1 % → グルクロン酸 & フラボノイド供給c) スパン 80 (0.05 %, w/w) 添付 → グルクロン酸比率 +30 %(Tremella で実証) | 糖酸・フコース前駆体と界面活性剤で多糖構造を誘導 |
③ 環境ストレス誘導 | • 培地被覆完了後 20 日目に CO₂ 2,000–3,000 ppm(24 h)→ 酸性多糖合成系活性化• 果実形成期に日量 2 分間 UV-B (280–315 nm) → エルゴステロール→ビタミン D₂ 変換 | 軽度ストレスは二次代謝&抗酸化酵素群を賦活 |
④ 生理活性ブースター | • サリチル酸 0.1 mM ミスト噴霧(培地表面)× 2 回• キトサンオリゴ糖 0.2 % を水和時に溶解 | 防御応答経路を介し多糖・ポリフェノール生合成を促進 |
期待値
– 総多糖 +15〜25 %、グルクロン酸比率 15–18 %、分子量 ≒ 8 × 10⁵ Da
– ビタミン D₂ 2 mg g⁻¹ DW 超(5 min UV-B 処理時)
– 乾燥歩留まり 18–20 %/菌床
3. 白いキクラゲ菌の培養工程(例:2 kg/袋固体培養)
ステップ | 条件 | 詳細 |
種菌作製 | ポテトスープブロス+1 %酵母エキス、25 °C、150 rpm、7 日 | 菌糸径が太く白濁したら使用 |
一次菌糸培養 | 3 % 接種、25 °C、RH 65 %、暗黒、28 日 | 完全被覆で袋を転地 |
休眠刺激 | CO₂ 2,500 ppm/48 h、18 °C | 多糖合成系 up-regulation |
原基形成 | 湿度 95 %、20 °C、300 lux、気流 0.3 m s⁻¹ | 7–10 日でピンが揃う |
子実体肥大 | 温度 18–22 °C、UV-B 2 min day⁻¹、RH 90 % | 12–15 日で収穫 |
4. 改良株の菌(純粋培養株)の取り出し手順
(A) 無菌組織培養
- 収穫直後の内側組織を 3 × 3 mm に切除
- 70 % EtOH 30 s → 1 % NaOCl 60 s → 滅菌水 3 回洗浄
- PDA+ストレプトマイシン 100 mg L⁻¹、ゲンタマイシン 50 mg L⁻¹ に接種
- 25 °C 3–5 日後、周辺部健全菌糸を新寒天にトランスファ
(B) 胞子分離(遺伝的多様性確保用)
- 成熟子実体を滅菌シャーレに伏せ、加湿室で一晩胞子落下
- 0.05 % Tween-80 懸濁液で回収、100 – 300 spores mL⁻¹ に調整
- 低栄養寒天(1 % マルトース、0.2 % 酵母エキス)に塗布し単胞子培養
ポイント
• 表面殺菌を強めすぎると生存率↓、NaOCl 時間は 60–90 s 以内
• 白変株は紫外線に弱いのでスポア法は暗所操作
5. 品質のモニタリング & 比較
- 多糖含量:フェノール-硫酸法 (Glc eq.)
- グルクロン酸比率:HPLC–PAD で単糖組成解析
- 粘度:1 % 水溶液の表観粘度 (25 °C) を回転粘度計で測定
- 抗酸化活性:DPPH・ABTS ラジカル消去能 (IC₅₀)
⇒ 既報白キクラゲ TPS の指標と比較:粘度 ≥ 90 mPa·s、IC₅₀ ≤ 0.5 mg mL⁻¹ が目標
▸ 実装のヒント
- 海藻粉末や柑橘果皮は 水分活性が高いので、加水率は必ず 2–3 % 下げて調整。
- スパン 80 は 70–80 °C に溶かし、培地冷却時に攪拌添加すると分離しにくい。
- UV-B 照射装置 は波長ピーク 305 nm・光束 0.5 W m⁻² 程度で十分。過度照射は褐変を招く。
- 多糖強化後は水戻し時間が延びるため、乾燥製品を作る場合は 55 °C 以下の温風乾燥で 8 % 水分まで。
これらの手順を組み合わせることで、白いキクラゲでも白キクラゲに近い保湿・美容活性を持つ子実体を安定生産でき、さらにその改良株を純粋培養株として分離・保存できます。
目的別に設計する“機能性ブースト菌床”の処方と製造工程
狙いと指標 | 推奨添加材(1 kg乾式基材当たり) | 科学的根拠・期待効果 |
グルクロン酸比率↑※目標15 %超 | Span 80(ソルビタンモノオレイン酸エステル)0.5 g(0.05 % w/w)Ca-グルコン酸 10 g | 0.3 % Span 80でT. fuciformis多糖のグルクロン酸比率が15.4 %へ上昇 |
フコース&硫酸化多糖↑ | 粉末褐藻(ケルプ/ワカメ)30 g(3 %) | 褐藻フコイダンはフコース25–93 %、ウロン酸~25 %を含有し、高い保湿・抗酸化能を付与 |
ウロン酸前駆体&ポリフェノール↑ | 温風乾燥ミカン果皮粉 20 g(2 %) | 果皮可溶性食物繊維はガラクトロン酸が豊富で抗酸化能・粘度を高める |
ミネラル/架橋点形成 | CaSO₄·2H₂O(石膏)15 g + CaCO₃ 10 g | 低濃度Caは菌糸成長と多糖生合成を促進し、pHバッファにも寄与 |
Se‐多糖(美容抗酸化) | Na₂SeO₃ 20 mg | 微量セレンはSe‐結合多糖合成を誘導(0.002 %以下で毒性回避) |
ビタミンD₂前駆体↑ | 小麦胚芽粉 10 g(1 %) | 胚芽油中エルゴステロール供給源 |
基本基材
水分
製造フロー(2 kgポリプロピレン袋タイプ例)
工程 | 手順と管理ポイント |
① 計量・プレミックス | 乾燥原料をリボンミキサで3 min撹拌→海藻粉→果皮粉→ミネラルの順に投入。粉体同士を先に均一化すると海藻の吸湿固着を防げる。 |
② 加水調整 | 55 ℃の温水で水和(約1.25 L/袋)。果皮粉が水分活性を高めるため、仕上げ含水は通常より-1 ~-2 ポイント低めでOK。 |
③ 充填・通気フィルム装着 | 115 × 285 mm のPP耐熱袋に乾重量2 kg相当充填、0.2 µmフィルターキャップ装着。底部を軽く叩いて空隙解消。 |
④ 高圧殺菌 | 121 ℃×2 h。殺菌後は庫内で80 ℃→60 ℃まで段階冷却し凝固防止。 |
⑤ 無菌添加 | 45 ℃以下でクリーンベンチ搬入。‐ Span 80を70 ℃温水に溶かし無菌濾過した原液(5 %)を10 mL/袋注入し軽く揉み込む。‐ Se溶液(2 g L⁻¹) をピペットで10 mL/袋点滴し速やかにシール。 |
⑥ 接種 | 改良白いキクラゲ種駒を**全重量の3 %**混和接種。袋を横倒しにし、側面を4〜5回揉んで菌糸の面積を確保。 |
⑦ 一次培養 | 24 ℃・RH 65 %・暗黒 28 日。15 日目で袋を反転し、空気層を上下入れ替え。 |
⑧ 休眠刺激 | CO₂ 2,500 ppm×48 h(18 ℃):ウロン酸系多糖経路を活性化。 |
⑨ 原基形成~子実体肥大 | 20 ℃・RH 95 %・300 lux。原基揃い後、UV-B 305 nm 0.5 W m⁻² ×2 min/日でエルゴステロール→D₂転換を促進。収穫まで12–15 日。 |
品質検証と微調整
項目 | 測定タイミング | 合格基準 |
総多糖 (フェノール-硫酸) | 乾燥品ロット毎 | ≥ 60 % DW |
グルクロン酸/マンノースモル比 (HPLC-PAD) | 収穫1回目 | ≥ 0.18 |
フコース含量 | 収穫2回目 | ≥ 10 % |
ビタミンD₂ (HPLC-UV) | UV-B処理後 | ≥ 2 mg g⁻¹ DW |
粘度 (1 %溶液, 25 ℃) | 製品化前 | ≥ 90 mPa·s |
調整Tips
- 粘度が低い場合:海藻粉+0.5 %/Span 80+0.02 %を次ロットで増量。
- グルクロン酸が不足:ミカン果皮粉を+1 %し、CO₂処理を72 hへ延長。
- フコースが不足:海藻粉の種類を昆布→モズク由来(高フコース系)へ変更。
まとめ
上記処方は
- Span 80+Ca/Se+果皮粉でグルクロン酸・抗酸化フェノール・ミネラルを同時強化、