
水耕栽培の環境調整について
水耕栽培は根を土に植えて養分を吸収させるのでは無く養分を含ませた養液で栽培します。
養液環境
養液
- 水温が水耕栽培の生育に大きく影響する。
- 水温が高すぎると酸素不足や雑菌の繁殖が起こり、肥料の吸収が悪くなる。
- 最適な水温は約15~25℃。
- 養液槽の水温を計測し、適切な水温管理が大切である。
- ハウス型水耕栽培ではチラー等で温冷水を投入し調整する。
- 水温計測センサの設置場所まで養液が循環する時間を待って数回測定し徐々に調整する必要がある。
- 温冷水投入量、時間、到達時間を設定し、数回掛けて温度調整することで設定水温に近づけることができる。
- 密閉型植物工場の場合は屋内に設置の空調機で自動調整が可能である。
肥料濃度
- 粉末液体肥料は2種類の使い方がある
- 粉末肥料は袋に分かれて提供され、指定量の水をタンクに入れて撹拌して溶かす
- 液体肥料はボトルに入って提供される
- 2種類の肥料を混ぜると凝固する成分が含まれているため、別々の容器に管理し、同時・同量を栽培槽に投入する必要がある
- 投入装置には、チューブポンプ型、ベローズポンプ型などがあり、2種の液体肥料投入用として2台1セットで使用される
- 液体肥料の濃度は、栽培植物に合わせて調整する必要があり、成長期によっても変更が必要
- 肥料濃度は電気伝導率センサ(ECセンサ)で計測し、設定濃度以下で投入開始し、設定濃度到達で停止する自動制御を行う
- 投入設定には、養液槽の大きさ、水流による影響があるため、植物工場単位に数回に分けて試験し決定する必要がある
- 水流速度を計測するためには、流量センサを養液槽内に設置し、平均速度を求めることができる
- 肥料濃度計測用のプローブは定期的にメーカー提供のクリーナで洗浄し、メーカー指定の期間で校正液により校正する必要がある
pH調整について
- pHは1から14までの酸性からアルカリ性の値である
- 水道水は概ねpH7近辺に調整されている
- pHセンサにより計測可能である
- 栽培植物の種類によってpHが変化することがある
- 酸性を下げるには農業用酸性溶液、アルカリ性を上げるにはアルカリ性溶液を用いる
- pHは溶存酸素量を増やすことでも下げることができる
- 水道水、井戸水などのpHは異なる
- 栽培植物によってpHが徐々に酸性かアルカリ性に偏る傾向がある
- 酸性溶液投入装置とアルカリ性溶液投入装置の2台を設置するかは給水する水質によるため栽培管理者に委ねられる
- pHの安定化方法について
- 養液更新をすることでpHは安定する
- pHの上昇下降には時間を要する
- 毎日、設定容量の養液を排水し、新しい更新水を投入することでpHは安定する
- pH計測について
- pH計測センサにより計測する
- 定期的に洗浄や校正を実施する必要がある
- 校正液は4.0・7.0・10.0の3種類などがある
- 水耕栽培では養液内の酸素を根から吸収するため、溶存酸素量を調整する必要がある。
- 水流を利用して空気を吸わせる方法やエアーポンプを用いる方法などがある。
- 各種植物の吸収する酸素量は異なるが、飽和量は葉が養光を受けているか否かで変動する。
- 根は土中ではなく水中より酸素を吸収するため、溶存酸素を上昇させる必要がある。
- 水耕栽培に移植した苗は、酸素供給が不十分になり、植物は酸素欠乏をきたし「窒息状態」に陥ることがある。
- 植物は根の柔細胞の間隙を大きくしたり、通気組織を発達させることで酸素供給を増加させる。
- ナノバブル発生装置等で微細な気泡を用いて酸素を供給する研究が行われている。
- 溶存酸素量はDO計測センサで計測するが、センサ内部に計測用液を入れる必要があり、定期的に補給する必要がある。
- 新しい計測方法の開発が需要があると考えられる。
- 栽培槽内の養液更新方法は栽培管理者により異なる。
- 養液更新は、設定容量を設定時間隔で設定割合を排水し同量の新しい水に更新する方法を使う。
- 前日の給水量の設定割合の養液を更新する等の制御が求められる。
- 貯水水位は水位センサで実施することができる。
- 通常、補給水制御はフロートスイッチ等で水位を検知させ、適正水位が下がると自動給水し適正水位を検知すると給水を停止させている。
- 水位確定のために設定時間経過しON・OFFしているかを監視し、水位を確定する必要がある。
- 養液槽の水位を1mm単位に計測出来るセンサを用いて、養液消費量を求めることができる。
- 自然蒸発も生じるため、植物が吸収した養液量を求めるには空調室外機からの排水量を計測し養液消費量から引くことが必要。
- ハウス式水耕栽培の場合は概算するしかない。
- 養液更新は、補給水量及び排水量を流量センサで計測し、排水量を計算で求め排水させることができる。
- 排水後は水位センサが適正水位を検知するまで給水させる。
- このプロセスは循環ポンプ運転状態で実施するが、循環ポンプが空運転しない最低水位を検知し運転させるなどが必要。
- 自然界では植物の根は水流による加圧変化を受けない。
- 水耕栽培では、根への水流による加圧ストレスを軽減するために循環ポンプを設定時間隔によりON/OFFする間欠運転モードを持たせる必要がある。
- 栽培管理者は栽培植物の成長段階に応じて間隔時間を調整する必要があり、連続運転や養光照射時、消灯時によって間欠運転時間の設定変更ができるようにする必要がある。
- この調整には、循環ポンプ運転での酸素供給に関係するため、栽培管理者が溶存酸素量との関係をログ等で確認できるようにする必要がある。
- 植物の葉・茎は生育適地環境により温湿度が異なるため、温湿度も計測する必要がある。
- 密閉型植物工場では、空調機により温湿度を調整できる。
- ハウス式水耕栽培では、外気温・湿度によってハウス内の温湿度が左右されるため、換気扇や窓開閉、遮光カーテン等による調整が必要。
- 葉菜類の場合、レタスなどでは栽培室の室温が20℃の場合、養光照射時には24〜26℃程度に上がるが、葉の温度は蒸発潜熱で20℃程度に下がる。
- 葉の気孔の開閉は湿度により変化するため、適度な湿度環境が必要。
- 栽培植物の近くで温湿度を測定することが望ましい。
- 太古の昔のCO2濃度は数千ppmだったと推測される。
- 現在の自然界のCO2濃度は最低でも400ppm程度。
- 植物が良く育つCO2濃度は1,000ppm程度とされている。
- CO2ボンベ等による投与で栽培空間を1,000ppm程度に保つことがベスト。
- CO2濃度はCO2センサで計測し、設定値以下になった場合はCO2ボンベに取り付けた電磁弁を作動させCO2を投与する。
- CO2が栽培空間全体に拡散されるまでの時間を設定可能で、設定時間内に数回に分けて投与しないと設定値を大きく超えることがあるため注意が必要。
- 人間はCO2濃度が3,000ppm程度になると眠くなり、高濃度のCO2は生命に危険を及ぼす。
- 栽培従事者が安全に従事できるよう、設定濃度を超えると自動で強制換気を実施し、危険を栽培従事者に警告灯や警告音で通知する必要がある。
- 光合成が促進されない夜間、栽培照明消灯時間帯はCO2を投入しても無駄になる。
- 近年、植物が好む光の波長を発光するLEDが各種提供されている。
- 水耕栽培では、育苗箱に播種スポンジを敷き、種子を播種して発芽させ、幼葉がある程度育った時点で養液が循環する栽培槽内に移植し、収穫まで育てる。
- 育苗箱・栽培槽での成長期により照射時間をタイマーにより設定できる必要がある。
- 光合成のための光は、植物の成育を左右する環境条件の一つである。
- 植物生理学や栽培学の分野では、照度という単位を使って植物に与えた光条件を定量化していたが、適切な方法ではない。
- 環境工学の分野では、短波放射束密度(または光合成放射束密度)を使用することが多かったが、これも正確性に欠ける。
- 最近では、光合成光量子束密度(PPFまたはPPFD)を使用することが適切であると考えられている。
- 栽培棚の光環境は、光合成有効光量子束密度(PPFD, mol m-2 s-1)を用いて測定される。
- 測定に用いるPPFD計は、メーカー毎に光合成有効波長域の感度が異なり、測定値が異なることに注意する必要がある。
- 光源が植栽の上側に配置されている、一般的な下方照射の栽培棚の例を示す。
- 測定は、無栽植時と栽植時の2ケースについて行われる。
- ケース1:無栽植時を想定した測定
- 測定時は、白色シートを栽培面に貼りPPFDを測定する。
- ケース2:栽植時を想定した測定
- 測定時は、緑色葉の群落を仮定して、緑色葉の反射率を模擬したシートまたは黒色シートを栽培面に貼りPPFDを測定する。
- PPFD分布栽培面におけるPPFDの均一性を示すために、無栽植時のPPFDの測定値±標準偏差(S.D.)を求める。
- 測定例:PPFDは、1m2当たり20ブロックに分けて各ブロックの中央点で測定し、20ポイントの測定値と標準偏差(S.D.)を求める。
- 植物個体間の成長のばらつきを抑えるためには、栽植面のPPFDのばらつきを小さくすることが重要。
- 例:葉菜類を栽培する場合、変動係数(CV = S.D. / 平均値)が10%以下であることが望ましい。
- 照明システムの照明効率を照明効(Y)と定義する。
- Y = PPFD × A / PPF × N
- PPFD:平均光合成有効光子束密度(mol m-2 s-1)
- A:対象とする栽培面の面積(m2)
- PPF:光合成有効光子束(mol s-1)
- N:面積A当たりの照明器具の本数
- 照明効率と栽培面のPPFD分布を併せて表示する。
- 光量子計は高価だが、各種LEDと、栽培植物による実験環境で得たデータを使用して栽培現場の環境を調整することができる。
- 適度な送風が植物の生育に必要
- 送風により蒸散スピードが早くなり、水分の吸収も促進される
- 葉の気孔の開閉が活発になり、呼吸や光合成が活発になる
- 植物の上部から送風することで葉の表面に効率的に風が当たり、蒸散スピードが早くなることが研究されている
- 植物工場では、ドローンをレールに沿わせて棚の上空から往復させることで低コストに送風させる方法がある